富士登山日記(短歌)



富士登山日記 (河口湖口より) 平成7年8月15日
 マイカー規制の為タクシーで五合目登山口(2.305m)まで。
 小御岳神社へ安全祈願をした後、高所に慣れるため身支度を整えたり
 して小1時間を過ごしAM6時15分出発、女房との日帰り登山、快晴、無風。

さぁ往こう!金剛杖を握り締め日の本一の富士に取りつく

 (勢い込んで歩きだしたら下り坂、標高で50mも下ってから登りに、
  足慣らしと思えばいいとしよう)

夏富士に抱かれ汗し登りゆく我ら小さし 頂上(いただき)遥か

輝ける富士を仰ぎつ休息す我を励まし若者のゆく

ふんはりと浮雲ひとつ長閑なり富士の裾野に日の影ひとつ

あちこちに浮雲ありて流れゆく富士の裾野に日影つくりつつ

半歩ゆき一歩ゆきして立ち止まり胸に取り込む富士の大気を

情けなや足が動かず気も漫ろ富士を枕にしばしの休憩

 (勇み過ぎてダウン、軽い高山病のように、約一時間の大休止を)

ヤッケ脱ぎザックも俺に担がせて何が元気だ!女房殿よ
 
 (ザック重くて駄目、と上着も脱いで私の背に、金剛杖一本に)

「待ってれば!」俺を残して女房は一人で行くと冷たきことを

それだけは勘弁男が廃ります我を励まし七合後にす
 
 (約2時間の休憩でスッキリ、食べたり、呑んだりして身軽になり出発)

どこまでも富士中腹よりのパノラマは模糊と霞みて夏空の下

富士登山高度を稼ぎし記念にと金剛杖に焼印を買ふ
 
 (各合目の山小屋で、200円也)

九合目 あと一息に勇めども富士の頂上(いただき)我を拒みぬ
 
 (鳥居が見え、あとひと踏ん張りとなってからのもがきったら)

音もなく光り輝く雲海を脚下に我は富士の高嶺に
 
 (頂上(3.720m)に立つも小休止の後、剣ケ峰目指し、お鉢廻りに出発)

その昔噴火せし痕累々と外輪山を成して聳へし
  
 (焼け焦げた痕さえ遺る噴火口を、お鉢廻り道が囲んで)

天下一日の本一の剣ケ峰富士山頂に 今我起ちぬ
  
 (遂に富士山頂剣ケ峰3.776mに到着、雲海の輝きに感動)

見晴るかす富士の裾野の遥遥と夏にかすみて音ひとつなし

頂上に思ひを残すも日の影の長きに追はれ別れを告げし
 
 (折角の機会と山頂部を隈なく歩き廻って、予定より大幅遅れの5時丁度に出発)

雲海に伸びゆく富士の影を背に九十九折くだる夕日を浴びて
  
 (くっきりの影富士が見送つてくれる)

富士下山どこまで続く九十九折れ夕闇はるかに町の灯点き初む
  
 (火山礫を敷き詰めた下山道にてこずり、予定外に時間を消費)

満天に星無く月無く下山道闇に歩運ぶ手を取りおふて
  
 (日暮れ前に下山予定でライト不携帯という大失態を)

ほうほうの態で下り来し五合目に最終バスの待てりて安堵
  
 (20時20分発の最終バスに滑り込みセーフ)

スバルライン下りゆくバスの揺れに身を預けまどろむ富士に疲れて

火山礫ただ累々と積む山をひとは賞でゐる秀麗富嶽と

遥か遠くに仰ぎ見るだけだった、あの富士山の頂上に自分の足で起った喜び
達成の瞬間は嬉しさよりも苦しさからの解放感が。
箱庭のような下界の広がり、日陰を裾野に置いてポッカリ浮いた雲。
強い夏の陽をうけてギラギラ輝く雲海、雲海に伸びる影富士。
独立峰であればこその景色に酔い痴れて暫し。
特に剣が峰に起ったあの瞬間の感激は一入、富士山は不思議な山です。
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富士登山日記(砂走り口より) 平成10年8月14・15日
 今回は、ご来光を頂上から拝観しようと、カメラ道具一式を背負って独りでの登山。
 晴れとの予報を信じて、古御岳神社に安全祈願をした後に、
 登山口(2.000m)を16時に出発。
 
  頂は夏空に聳ち吾を待ちぬ苦しみ喘ぎひとり富士ゆく


樹林帯抜けて見上ぐる頂の夕日を纏ひ赤富士となる

登りゆく富士の六合暮れなずむ見上ぐる頂蒼空に聳つ

満天に星をいただき登りゆく 富士の朝(あした)が我を待ちゐる
 
(満天の星に感激、手を伸ばせば届くよう、ヘッドランプの光りを
  只ひたすら追って)

闇に霧冷気に追はれ逃げ込みし富士の山小屋人いきれ満つ
   
 (八合目付近に差し掛かると突然の霧、寒さも加わり山小屋へ避難)

汗臭き蒲団に包まる八合目富士の山小屋眠るに難し
   
 (広場に雑魚寝それも両肩が触れる程の距離、ましてや女性、参りました)

明けやらぬ富士八合目は登山者らの蠢(うごめ)く群れに埋め尽くされぬ
 
 (3時に蒲団を抜け出し、身支度を整えて出発、霧に包まれた登山道は大渋滞、)

この登山道(みち)の果てに頂待つといふ富士の曙我を勇むる
 
 (明るくなり始めた頃からやっと動き出すも、雲の中、頂上の晴れを願いつつ)

我は今富士山頂に立ちたるも雲にのまれし魚になる如
 
 (人波を掻き分けるようにして、やっと辿り着いた富士山頂は雲の中、視界ゼロ)

降るごとき霧に包まる富士山頂人人人に冷雨の舞へり
 
 (山頂は零れんばかりの人の波、冷たい濃霧に包まれ雨までも、残念!

山頂の郵便局に暑中見舞ひ富士の香りをつけて託しし
 
 (予めハガキを用意して登山、富士山頂局の消印を押して貰って投函)

晴れ渡る時を待つこと三時間寒さに負けて下山を開始
 
 (浅間大社奥宮へお参りしたり、弁当を食べたりして晴れるを待つも、
  寒さに堪えられずに)

霧海ゆく人影見えず火山礫踏みしむる音乱れては消ゆ
 
 (砂走り口への下山者はまばら、少し離れると前を行く人が霧で見えなくなる事も)

小気味良くリズム刻みて砂走りの宙(そら)翔け下る富士を蹴ちらし
 
 (霧が薄くなり視界が開くと一気に駆け下りて、距離を稼いでの繰り返し)

下りきて見返る富士の嘲ひしや喘ぎもがきて登りし我を

一年を通して一番混むと言う旧盆の休日、覚悟をしての登山も余りの混雑に唖然。
  (私自身その中の一人であることを棚に上げて) 
予報はずれにがっくり、山の天気は変り易いとはいいますが。
尤も晴れてたにしても、渋滞で山頂からのご来光は無理だったろう。
樹林帯の下山は膝にきてかなりきついもの、膝に自信の無い方は避けた方が。
12時30分登山口迄下山、振り返り見上げれば雲の中、又の機会を誓って帰路に。




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