札幌・函館旅日記(短歌)
 平成14年11月5日〜7日


ALSを罹患して4年、両手の機能はほぼ全廃、脚は平地を歩くのがやっと
の状態となり、段差は自力では上がれず、ひと様のお手をお借りする状態で、
旅行が出来るものかと不安に駆られるも、自分の脚で歩ける内にと、
初めての「北海道」の旅に、女房と二人で出かけました。
               

客人となりて納まるカシオペア北の大地に想ひを馳せて
 (上野発16時20分札幌行、個室寝台特急カシオペア7号車2番室)

滑るよに走りだしたるカシオペアビルの群れ群れ置き去りにして

心地好し駆けるホテルの揺れに身を委ね聞きゐる鉄路の響き

一段と高きにありて誇らしげダイニングカーに集ひし人の
 
漆黒の窓に流るる冬星座見つつ戴く夕餉の旨し
 (フランス料理フルコースを)

走り去る町の灯ひとつ淋しげにワイングラスのひそかに揺れて

テーブルになにげに置かれし薔薇一輪ワインの赤と競ひてをりか

盛岡の闇に静けしホームにて吾娘(あこ)と再会停車の暫し
 (23時20分娘夫婦が来てくれて)

奔りゐるベッドにありて観る闇にオリオン星座凛としおあす
 
満天の星空仰ぎかたむけし寝酒の旨しカシオペアにて
 (眠れぬままに、星空を肴に一献をかたむけながら夜が更けていきました)

青函のトンネル駆ける客に居て惨事を想ふ洞爺の丸の
 (ごうごうたる騒音に眠りを妨げられて)

明けやらぬ車窓の闇に流れゐる北の大地の寒々として
 (列車の灯りに照らされる風景は、雪こそ無いものの寒々と)

明け残る落葉松(からまつ)林もみじして黄色き帯の流れて消へて

青函トンネル(トンネル)を抜けて広がる北の海
                     雲垂れこめて雨粒とびて
 (噴火湾に差し掛かると、黒雲が低く垂れ込めてしきりに雨が)

長万部想ひおこせばその昔息子学びしキャンパス今も
 (駅手前小高い丘の上に三棟が見えて)

群れ建ちぬ車窓に見へし家々の煙突冬の厳しさ語り
 (四角い家に四角い煙突、先ずは北海道を見た感じ)

青函のトンネル抜けた証しですオレンジカード売りに車掌が
 (JR北海道管内のみにて販売)

雨止みて垂れ込めし雲どこへやら札幌の街青空の下
 (雨のち晴れの予報がぴったり、快晴の空に歓迎されて札幌に)

札幌に到着しますのアナウンス十六時間の旅短くて
 (08時54分到着)

降り立ちぬ札幌駅の雑踏の行き交ふ人の嬉嬉とし笑みて

計らずも宴の季節(とき)に訪ね来し北の大地の旅人となりて
 (予期せぬ紅葉の真っ盛り例年よりかなりの遅れとか)

北大のイチョウ並木の黄に染まる季節(とき)の移りの遅れに感謝

七竈イチョウ並木に楓たち もみじしてゐる今を盛りと

美しや北の都の大通り秋化粧して雪来るを待つ

テレビ塔登り俯瞰す街並みの碁盤の目ごと整然として

雪祭りライラック祭りに想ひ馳せ北の大路に別れを告げて

大倉のシャンツェに立ちて想ひ出すオリンピックのあの日ノ丸を
 (朝まで降っていた雪が一面に、スタート台は雲の中)

大倉の五輪マークの誇らしげランディングバーンの遥か高きに

今朝迄に降り積もりたる雪ありてスタート台に立ちたし気なり

三本の日ノ丸揚げし宮ノ森去ること遠し今寂(じゃく)として
 (宮ノ森シャンツェ、人ッけ無くヒッソリとして)

ススキノのラーメン横丁訪ね来てヒッソリ閑に暫しウロウロ
 (夜の喧騒は嘘のよう、シャッター街でした)

ススキノは天道様のお寝みになられたあとの街ですとゐる

どの店が一番ですかと聞く愚か決めかね歩く行き交ふ人に

イラッシャイいらっしゃいどうぞ呼び込みに
                  ついフラフラと乞はれるままに

サッポロのラーメンすすり満足げらーめん談義親仁と交はし

駆け足で札幌の街かじりきて凍て着く様を見てみたしとも

函館へ奔る特急心地よし車窓に流るるもみじの美事
 (札幌発13時30分特急北斗14号で)

修学の旅行にいでし子ら引率(ひ)きる教師の叱声車内に響き

はしゃぎいる子らの姿をその昔学びし頃の我れに置き換へ

暮れ残る函館駅に降り立ちて開幕近しショーへと急ぐ
 (函館着16時50分) 

ホテルへのチェックインさへもどかしくタクシー駆って函館山へ
 (函館ハーバービューホテルへ)
                     函館夜景

人は皆宝石箱を云々と未だ見ぬ様を例へてをりぬ

暗闇に挙りてあげし歓声ぞ函館山の光りのショーに

北海の漆黒に浮かびしオリオンのその美しさ忘れてしばし

眼の下に光りの海の広がりてその美しさ我れ忘れ見ゆ

佇みて只佇みて見下ろせし光り輝く函館夜景

この様を例へしものを探しゐる光りの海の我去り難し

暮れなずむ刻から独り観てゐたし函館夜景寝静まるまで

ライトアップされし山の手坂の町遥かの向こふ船影も見へ

北国の港函館音もなく光り輝き静まりてゐる

タクシーを操りながら誇らしげ旧跡示す運転手さんは

永かりし今日一日を休めたしホテルのベッド広々として
 (東京を発ってから動き詰めの30時間、睡眠不足も手伝って、疲れました)

高層のホテルの窓から見る街のゴチャゴチャとして昨夜の不思議
 (一夜明けて見る函館の街は、どこにでもありそうな風景で)

函館の朝市淋し客まばら蟹蟹蟹が俺を買ってと
 (朝市なのに行ったのはお昼前、ラッシュが終っててガランとしてて)

どの顔も笑顔に包まれはしゃぎゐるおばさん達のガラスの館
 (はこだて明治館にて)

街路樹の紅葉せしむ七竈その鮮やかに函館を識る
 (真っ赤な葉に、真っ赤な実、文字どうりの紅葉でした)

何故に星形城を造れしやその訳識らず北国ロマン
 (五稜郭タワーに登って)

凍てつきの苦労しみじみ話しゐる声心なし誇りに聞こえ
 (市内を案内してくれたタクシーの運転手さん)

フライトのチェックインせしカウンター手伝ひますの声嬉しくて
 (ANA862便ジャンボ右窓際席予約)

カチャカチャと安全ベルト締める人皆一様に確かめてゐる
 (函館発16時30分 羽田行き)

離陸して旋回せしむジャンボ機の眼下に微か函館の街

夕焼けの紅(あか)雲海の縁にあり蒼けし空を美事に隔(わ)けて

見慣れたる房総半島眼下にし我が家のあたり何処と探す

東京の光の海にランディング何時もながらにホッと安堵す
 (17時50分羽田着)

リムジンの開(ひら)けし窓から見る街の光り輝く東京夜景
 (リムジンバス池袋行き)

首都高を走るリムジン心地好し光の海に酔ひしれをりぬ

リムジンの目指すは終点池袋帰り着きしは喧騒の街
 (19時30分終点メトロポリタンホテル帰着)

自分の足で歩ける内にと、思い立った「旅」 最初にして最後に
なるだろう北海道。例年より大幅に遅れた「紅葉」に歓迎され
天気にも恵まれたことも相まって、気分は最高、出掛ける前の
心配は杞憂の外、皆さんに親切にして頂いて楽しい旅でした。


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